業界構成図
業界構成図とは
SIer 業界は、1 つのプロジェクトを複数の企業が階層的に分担して遂行する「多重下請け構造」を特徴とする。顧客企業から直接受注する「元請け(プライム)」を頂点に、一次請け、二次請け、さらにその下へと業務が委託されていく。この構造は建設業界のゼネコン構造に例えられることが多い。
基本概念
多重下請け構造の全体像
SIer 業界の典型的な階層構造を以下に示す。
┌─────────────────────────────────────────────────┐
│ 顧客企業 │
│ (金融機関、官公庁、製造業 等) │
└──────────────────────┬──────────────────────────┘
│ 発注
▼
┌─────────────────────────────────────────────────┐
│ 元請け(プライム) │
│ NTTデータ、富士通、NEC、NRI 等 │
│ 役割: 顧客折衝、要件定義、全体管理 │
└──────────┬────────────────────┬──────────────────┘
│ 委託 │ 委託
▼ ▼
┌────────────────────┐ ┌────────────────────────┐
│ 一次請け │ │ 一次請け │
│ 中堅 SIer 等 │ │ 中堅 SIer 等 │
│ 役割: 基本設計、 │ │ 役割: 基本設計、 │
│ 詳細設計、管理 │ │ 詳細設計、管理 │
└─────────┬──────────┘ └──────────┬─────────────┘
│ 委託 │ 委託
▼ ▼
┌────────────────────┐ ┌────────────────────────┐
│ 二次請け │ │ 二次請け │
│ 小規模 SIer 等 │ │ 小規模 SIer 等 │
│ 役割: 詳細設計、 │ │ 役割: 実装、テスト │
│ 実装、テスト │ │ │
└─────────┬──────────┘ └────────────────────────┘
│ 委託
▼
┌────────────────────┐
│ 三次請け以降 │
│ 零細企業、 │
│ フリーランス等 │
│ 役割: 実装、 │
│ テスト │
└────────────────────┘
各レイヤーの役割
元請け(プライム)
顧客企業と直接契約を結び、プロジェクト全体を統括する。主な業務は、顧客との折衝、要件定義、プロジェクト全体の計画策定と進捗管理、品質管理である。技術力だけでなく、顧客の業務知識や大規模プロジェクトのマネジメント能力が求められる。利益率が最も高い層でもある。
一次請け
元請けから特定の機能領域やサブシステムの開発を請け負う。基本設計から詳細設計を中心に担当し、配下の二次請け以降の管理も行う。中堅 SIer やグループ会社が担うことが多い。
二次請け以降
詳細設計、プログラミング、単体テストなど、より実装に近い工程を担当する。小規模な SIer やフリーランスエンジニアがこの層に位置することが多い。上流の仕様変更の影響を受けやすく、納期やコストの面でプレッシャーがかかりやすい。
契約形態
多重下請け構造では、主に以下の 2 つの契約形態が使われる。
| 契約形態 | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 請負契約 | 成果物の完成を約束する | 納品物に対して報酬が支払われる。品質責任は受注側が負う |
| 準委任契約(SES) | 労働力の提供を約束する | 稼働時間に対して報酬が支払われる。成果物の完成義務はない |
下層ほど SES(システムエンジニアリングサービス)契約の比率が高くなる傾向がある。
SIer での実態
この構造のメリット
- 大規模プロジェクトの遂行が可能 --- 数百人〜数千人規模のプロジェクトを、1 社ですべてのエンジニアを抱えることなく遂行できる
- 専門性の分業 --- インフラに強い企業、特定業務領域に詳しい企業など、得意分野を持つ企業を適材適所で組み合わせられる
- 人員の柔軟な調整 --- プロジェクトのフェーズに応じて必要な人数を増減させやすい
- 若手エンジニアの育成機会 --- 下請け企業にとっては、大手企業の案件に参画することで技術力や業務知識を獲得できる
この構造のデメリット
- 中間マージンによるコスト増 --- 多階層を経由するたびにマージンが発生し、最終的なコストが膨らむ。末端のエンジニアに支払われる単価は元の発注額から大きく目減りすることがある
- コミュニケーションコストの増大 --- 顧客の意図が伝言ゲームのように変質するリスクがある。仕様の誤解や認識のズレが発生しやすい
- 責任の所在が曖昧になりやすい --- 問題が発生した際に、どの階層の責任かが不明確になることがある
- 下層のエンジニアのモチベーション低下 --- 上流工程に関われない、待遇面での格差、顧客と直接会話できないなどの不満が生じやすい
近年の変化
従来型の多重下請け構造は、いくつかの要因で変化が生まれている。
内製化の動き
DX 推進の文脈で、ユーザー企業が IT 人材を自社に取り込み、開発を内製化する動きが加速している。特に Web 系サービスの開発や、ビジネスのスピード感が求められる領域では、外部委託のリードタイムが課題となり、内製を選択する企業が増えている。
アジャイル開発の導入
従来のウォーターフォール型開発では多重下請けとの相性が良かったが、アジャイル開発では顧客とエンジニアが密にコミュニケーションを取る必要がある。このため、少人数の内製チームや、元請けが直接エンジニアを確保する形態にシフトするケースが出てきている。
クラウド・SaaS の普及
従来はゼロからシステムを構築する「スクラッチ開発」が主流だったが、クラウドサービスや SaaS の普及により、既存サービスを組み合わせて構築する案件が増えている。これにより、大量の実装要員を必要としないプロジェクトも増加している。
まとめ
- SIer 業界は元請けを頂点とする多重下請け構造が特徴的である
- 元請けは顧客折衝・要件定義・全体管理、下層は詳細設計・実装・テストを主に担当する
- 大規模プロジェクトの遂行を可能にする一方、中間マージンやコミュニケーションコストの課題がある
- 近年は内製化・アジャイル導入・クラウド普及により、構造に変化が生まれつつある